売り手と買い手、金銭の温度
2000年公開『Der Ausfiug 遠足』(五十嵐久美子監督)というドキュメンタリー映画があります。
舞台はオーストリアのウィーン郊外グギング村にある公立神経科病院敷地内の奥にある施設。1950年代に診療実験として患者に絵を描かせていました。その中に芸術的才能を持った患者がいる事を発見、1981年『芸術家の家』を創設、才能を認められた患者達が共同で暮らすようになりました。
その家から外へ出かける事を彼らは『遠足』と呼んでいます。
施設の運営方針として彼らを一人前の芸術家として経済的自立をさせているそうです。過度な自己顕示欲や名誉の為ではない自然な制作の様子を観ていると豊かに生きるとはどういう事なのか、と考えさせられます。
五十嵐監督の
「芸術ものにも障害者ものにもしたくなかった。孤独な幸福を描きたかった。」
との言葉通り、彼らの呼吸している空気に溶け込み、暖かな孤独にそっと寄り添う様な撮り方、描き方が印象的でした。
彼らが買い物をする場面がいくつかありました。
パズル雑誌、くじ、母親の墓に備える花、『遠足』でプラハに行ったお土産。
彼らは自分の作品を売り、そういう買い物をしています。
手作りや大量生産は問わずに誰でも欲しいものを買うはずです。
しかし商品の売り手が明確で、買い手がいて適正な金額が動く、そこに細やかな温度が生じ、穏やかで暖かな孤独を守る事に直接繋がる、そういう買い物にはまた違う価値があると思います。
自分が支払った金銭で誰が潤い、どういった幸福に繋がるのか、たまに考えてしまいます。たまにです。
KMでした。