想田和弘著『精神病とモザイク』(中央法規出版・2009年)
KMです。
本と映画のご紹介です。
想田和弘著『精神病とモザイク』(中央法規出版・2009年)
と
映画『精神』(想田和弘監督・2008年)
です。
想田さんは数ヶ月前に夫婦別姓訴訟でニュースになったのでご存知の方も多くいらっしゃるかもしれませんね。この方は観察映画という独自手法でドキュメンタリー映画をおつくりになられている方です。『精神』は観察映画第2弾、『精神病とモザイク』は初の著書です。
岡山県岡山市にある精神診療所『こらーる岡山』。
映画はそこを舞台としたドキュメンタリー作品です。登場する患者さん達にモザイクを一切使用しておらず、皆さん素顔を出し自らの言葉で語っておられます。情報の印象を固定してしまうようなテロップやナレーションもありません。
書籍では著者が東京大学新聞部編集長の時代に燃え尽き症候群で学内精神科を受診した話、本作撮影に至るまでや、撮影中の話、対談などが収められています。
作品外で補足説明を必要とするものは存在自体に疑問を持ってしまいますが、今作は扱っている題材や性質を考慮すれば例外と言えるのではないでしょうか。想田さんご自身も書籍冒頭でこう書いておられます。
『映画作家としては一種の敗北宣言かもしれないが、映画が生まれた背景や、作品からこぼれ落ちてしまった大事なことを、文章として書き記しておくことも、意義のある作業ではないかと思い至った。そうすることで、作品に対する洞察や精神医療に精神障害者に対する理解を深めることにならないだろか、期待しながら筆をとった。』
書籍後半には映画鑑賞後の『こらーる岡山』代表の山本昌知医師と想田さんとの対談が収められています。一部をご紹介します。
想田
『精神』を患者さん達とご覧になって、どういう感想をお持ちになりましたか。
山本
全体としては感激するというかねえ、そういう感じが強かったですね。僕が感じたのは、「分かる」ということが、その内容の問題よりももっと大事なんだということ。観られた方の感想を含めて特に感じましたな。
想田
分かるというのは具体的に?
山本
出ておられる人のいろんなしんどい体験が理解できる、その人が乗り越えてきた歴史が理解できる、ということがあると、非常に「つながる」というか。「自分達と同じ人間同士」という繋がりが出来るんだなと。分からない場合には自分で勝手にイメージして、排除したり、マイナスの関係が形成されていくでしょう。
我が子を殺めてしまった母、40年間闘病している敬虔なクリスチャン、大量服薬と自傷を繰り返した女性、全員が素顔を出し自らの言葉で話す。そして話さない時もカメラ前でモザイクのない視線は生き、呼吸をしている。そのフレーム内には過剰な文字情報や世の中で先行しているイメージを追従するような演出もない。受け手側は真っ直ぐに『観る』ことが出来ます。
映画もおすすめですが、より正確に深く理解するために今回は本の方をおすすめしたいです。
是非。