繋げるということ

ただいま、金沢から大阪へと向かう高速バスの車中です。

日曜の夜にマジェルカの営業が終わってから新宿発の夜行バスに乗って昨日の朝
金沢駅に到着しました。
目的は金沢で伝統工芸などの手仕事製品を中心にした製品のプロデュースや作り手間の
マネジメントをしている友人と、私が関わる障害者福祉施設でのモノづくりの部分で
何か今後一緒に組んで仕事が出来ないかという話をしに・・・
というのは建前で彼が今度事務所を出す金沢駅近くの町家をリノベーションした物件や、
彼自体が家族と住んでいる、やはりリノベした町家に泊めてもらえる事、その前に彼と、
金沢の美味しいお酒と料理を頂きながら色んな話が出来るというところだったのかな、と。
また、前者の建前の伏線として先日来の富山出張で関わった南砺市にある社会福祉法人
マーシ園さんに一緒に見学に行くというのも一つの目的でした。
そしてこれから訪問する大阪は、とある福祉ショップの店舗リニューアルのプランニング
のお手伝いをさせて頂いてるという訳で向かっています。
もう何年前になるんでしょうか(遠い目・・・)夜行の高速バスに乗るなんて学生時代の
スキー旅行以来です。
公園でも道端でも寝られる自信があるワタシですがやはり8時間座りっ放しってのは
しんどかった・・・
今日の大阪からの帰りも夜行バスなので思いやられますが、今回は大阪の件をのぞいて
別に先方から頼まれて訪問する訳ではないので経費は一切出ませんから節約しなければ
ならないのでした・・・
金沢に着いてまずは駅のカフェで朝食をとりながら、午後のアポまで時間があるので
最近の出張には珍しくしばしの自由時間をどう過ごそうか思案。
金沢の街を少しは満喫したいと思いつつ、昨日は朝から仕事をしてそのまま夜通しバス
だった事もあり「風呂はいりたい・・・」という欲求が。
調べると駅前のアパホテルで日帰り入浴可とのこと。
しかもナントビックリ600円!
という訳で朝っぱらからのんびり1時間以上も露天風呂からサウナまで満喫♪
サッパリしたところで10時半。
色々と巡りたいところですが待ち合わせの13時まで限られた時間です。
泉鏡花記念館で面白そうな展示をやっているのが気になりましたが、今回は店づくりの参考
の為にもシャレオツなショップ巡りという事でせせらぎ通りや新竪町を歩き回る事に。
シャレオツです。
レトロ感がいい感じです。
歪んだガラスがいい感じのココ、写真ではわかりませんが中にはおしゃれな雑貨や洋服などが
並んでいます。
こちらはOPENしていたので店の展示にでも使えそうな雑貨をゲットしました。
しかし!
殆どの店が休み・・・
「せっかく来たのに!」
とつい自分勝手な怒りをおぼえつつ、よく考えたらマジェルカのある西荻窪だってウチを
含めて月曜や火曜休みのお店さんが多いのでした。
しかもウチなんて最近定休日以外に勝手に休んでるし・・・
また歩き始めると、途中で福祉会館なる立派なものを発見。
福祉会館というからには金沢の自主製品のショップとかももしかしたらあるんちゃうの?
と思って立ち寄ることに。
さっそく入り口入ってすぐに置いてある煤けた感じのショーケースに煤けた感じでズラッと
並んで展示されていましたよ、金沢市内の施設の自主製品ってヤツラが淋しそうに伏し目がちに…
まるで「恥ずかしいからあんまりジロジロ見ないで・・・」とでもいわんばかりに。
ずっと前になんとな~く並べられて以来殆どそのまんまっぽい、誰からも注目されないような
そんなショーケースに食いついているワタシに後ろから不審な目を向けている受付のオッサン
に「この中でこれらの製品を販売している売店とかはありますかぁ?」と聞くと、「はぁ?」
みたいな感じで「いや~ないねぇ。」とのお返事。
オッサンは別に悪くはありません。
ちょうどお腹が痛くなったのでトイレだけ借りて出ました。
さて、お昼ご飯は何にしようと思い友人におススメを聞くために電話。
薦められたまま金沢B級グルメというハントンライスなるものを食しましたが感想は・・・
“トン”だからって豚的なモノをイメージした私がバカでした・・・
そんなこんなで時間も迫って来たので待ち合わせの東山地区に向かいますが、結局ずっと
朝から10キロ以上の距離を歩きっ放し。
でかいリュック背負った姿から、端から見ればただの胡散臭いバックパッカーです。
しかもそこそこ既に疲れてます。
無事に友人と合流。
富山に向かう前にまずは彼が事務所として入居するというリノベーションした町家物件を
見せてもらいました。
カッチョイイ・・・
入り口はいってすぐの玄関部分を見上げたところ。
羨ましすぎる・・・
前にも書いたことがあるかもしれませんが谷崎潤一郎の「陰影礼讃」という随筆作品が好き
です。
陰の部分があるからこそ光が際立って見える、光が様々な表情を見せるのも陰しだい・・・
みたいな内容。
その中でも触れられているけれど日本家屋の中で織りなされる陰と光がその典型。
ここ金沢でも有名な金箔を使った蒔絵なぞはビカビカの光の中で下品に見るのではなくて
光が届くか届かないかの奥の間でこそそこにある微かな光を集めて本当の美しさを発揮する
というような事も書いてあったっけな。
昔はそれこそ家の中でもそこかしこに真っ暗な陰の吹き溜まりの様な闇が当たり前の様に
あって目を凝らすと何かがそこに隠れているような・・・
話がズレました。
マジェルカも最初は出店の為の物件探しにあたり古い民家やアパート、倉庫や工場跡みたいな
物件が見つかればいいなと思って結構探した時期がありました。
築年数が古いほどイイみたいな。
ただ単にワタシが日本民藝館の年間会員だったり小金井の江戸東京たてもの園の大ファン
(ここの屋台のおでんが美味い!)だったり川崎の日本民家園にいたってはディズニーランド
に匹敵するくらいのテーマパークだと考えているような古い建物大好物というのもありますが、
マジェルカで扱う製品達というのが単なる物ではなく、それが作られる背景や、関わっている
ヒト達の思いというモノを内包していて、それが一つの価値であると考えているので、そんな
モノを並べ、その背景も併せて出来るだけ多くの事を伝えたり、逆に感じてもらうのには、
並べる場所、見てもらう空間としても様々なヒトの思いが蓄積された場所、そして出来るだけ
ヒトの手によって作られたような場所、そして想像力を巡らせる作用をもたらすような空間で
あればあるほど良いだろうという考えがあっての事でした。
ただ、そんな物件はそうは出て来ない。
あっても店として運営する為の他の条件が成り立たない。
何よりも予算的な問題も。
そういった現実の壁の方が私に限っては高かったのが実情でした。
そんな私にとってはこんな物件は羨ましすぎる・・・
きっといつかはウチも!という思いを強くさせられました。
ちなみにこの物件急遽空きが出たそうです。
どなたかご興味ある方いませんか?
さぁ、このあとは富山に向かいました。
40分くらいのドライブで到着したのは「社会福祉法人マーシ園」さん。
ここ富山の井波という地区では「井波彫刻」というものが伝統産業としてあり、日本家屋の
欄間などの制作でも有名な場所だそうで、ここマーシ園さんでも利用者さんの作業の一つと
して木彫に取り組んでおられます。
・・・とここまでは金沢から大阪に向かうバスの車中で書いていましたが、この後爆睡!
ということでここから先は帰ってきて西荻窪の店で書いております・・・
いきなりすごい欄間!
色々な説明を受けて早速作業の見学へ。
まずは興味がある木工室へ。
入った途端にクスノキのすごく爽やかでいい香りが満ちています。
一番奥に座っていらっしゃるのは先生ですが、他は利用者さんです。
時間が遅かったりもあって作業にかかっているのは普段の半数位だそうです。
もともとマーシ園さんは身体障害の方の施設としてスタートしているので、今でも利用者さん
の多くは身体に障害を抱えた方です。
他でも質の高い木工製品を作る施設さんは身体障害の方が関わっているケースが多いというのが
色々見知った中での私の理解ではありますが、今では知的や精神の面で障害を抱えた方もここ
にはいらっしゃいます。
こちらではヤスリ掛け作業をしています。
なんか可愛いクッキーみたいです。
機械室です。
これは糸鋸盤です、欄間を切り抜くのに使うらしいのですがこんなにデカい糸鋸盤は初めて
見ました。
欄間だけでなく獅子頭や人形など様々な木彫作品を作っています。
立派な木造の日本家屋を建てる家も減ってきているので欄間の需要というのも現在ではだいぶ
減ってきていますから、今後これらの技術や設備をどのように生かしていくかが重要な課題
です。
いずれにせよ、こんなモノづくりをしている施設は恐らく他にはそうはないだろうという事で
今後に何か活かせるかもしれないと見学に行きましたが、いずれ何か面白い事が一緒に出来れ
ばいいと思います。
友人ももしかしたらというちょっとしたアイデアがあって一緒に見に行ってくれましたし、
これに限らず職業柄色々なモノづくりに関わる施設や構造や体質を比較的知っている
(つもり)の私は、もっとどんどんこれから福祉施設と民間が繋がり、双方にとって
そしてそれを手にするお客さんにとっても喜ばれるモノづくりが進んでいけばいいと
思います。
また、極端な話、今回のマーシ園さんしかり、全国の福祉施設が持っている様々な資源を
使って大概の事は出来るんじゃないかとまで考えてもいます。
知れば知るほどそういう思いは強まります。
今回はまた福祉施設がもつポテンシャルを見せつけられた見学でした。
帰りにはこんなところを見学。
実際にマーシ園さんから巣立って職人として独り立ちする方もいらっしゃるそうです。
さて、この後は金沢に戻って友人と飲みながら話しましたが、福祉施設と民間を繋ぐという
話に関して、それぞれの文化に違いがありすぎる今はその仲介役というか通訳者がいないと
なかなか難しいし必須だよねという話に。
私はその仲介者となりたいと思っています。
そしてそれは又、今彼が関わっている伝統工芸の世界にも顕著にいえる事で、他にない魅力的
な作り手がいながらそれを一般の市場につなげるにはやはり双方の言語(例えです)を理解して
通訳し、それぞれお互いの世界の理解をさせて意思の疎通を促す立場というのが必要だし
実際の中でも重要だという話に。
ここで面白いのは、とかく福祉の世界は…という外の声に影響されて中で働く人達が必要以上
に自分達は特別な世界にいて、たまに世間とズレているという内向きな思いを持ってしまい
がちなのですが、似たような構造は福祉以外の世界でもザラにあるという事。
ただ、受け入れるべきものは受け入れるという姿勢、色々な視点を持つ事が必要なだけかと。
 
通訳という点、当初はちょっとクサいせりふだな・・・などと思いながらもマジェルカは
ホームページトップの紹介文にも書いた通り、昔は商人が文化の伝播役を担ったように、
まだ世の中に広く知られていない価値を見つけ出し、それを少しでも多くのヒトに伝えると
いう事を目指しています。
目指すというと大げさですが、それが私自身の喜びや楽しみでもありますし、生きがいにも
なってきているのかな・・・
(茶屋街の町屋の看板にじっととまっていたツバメ)
(金沢はまだ桜が満開でした)
バスではなく、自身もリノベ町屋に住んでいる友人宅の気持ちのいい空間で足を伸ばして
寝させてもらった金沢の翌日に行った大阪では、あの「雑貨本」を出版した太田さん達と飲み
にいく機会がありました。
私同様にもともと福祉畑ではない彼女はフラットな目線で(だからこそ)福祉施設製品の魅力に
気付き、それを伝える手段として本にしたことには私は勝手に近しい思いを持っています。
そんな彼女とこれまたお互い興味がある文化人類学と、福祉の話をチョロっとしたのですが、
(実は初めは店の名を「マジェルカ」ではなくて文化人類学者のレヴィ・ストロースが唱えた
概念の「ブリコラージュ」にしようかと思ってました)
その後に彼女がくれたメールの中でマジェルカの事を
「わたしたちと彼ら(障害者)の交易の場」という言い方をしてくれた事。
「彼らと私たちの文化の橋渡しをしてくれる」と表現してくれた事が、なんだかそれまでの
金沢での話とも繋がり、その偶然が不思議で面白く、そしてうれしく思えました。
そして、もう一つその中で彼ら障害者が持つ価値の事を「文化」と表現していた事。
ここで最後にチョロチョロっと語れる事ではない、とても深くて、もしかしたら現場で悩む
多くの方の意識を変える事が出来る一つの大切なキーワードなのかもしれないなどとも
思ってしまうのでした。
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